2024.10.02
「部活動対抗リレー 入場」
画用紙に油彩 2024
友人のはまや氏主催のグループ展「ハロー・グッバイ」に展示中の一枚です。
はまや氏の人生の節目にゆかりの作家たちが「出逢い組」と「別れ組」に分けられそれぞれ自由に制作するという展示。
野村は「出逢い組」に選んでいただきました。
直近の二人展の挨拶文ではまや氏が触れていたとおり、はまや氏との出会いは小学校の工作・イラストクラブでした。
「出逢い」と銘打たれているので素直に出会いのシーンでも描きたかったのですが、とても昔のことなので初対面の印象や会話なども覚えていません。写真も今ほど撮る時代ではなく、パソコンのフォルダを見ても小学校時代のデータはありませんでした。
どうしようかなあと思っていたときふと思い出したものが、はまや氏と同じく中学の美術部でよくつるんでいた友人からもらった小さなアルバムです。
少ないながらも中学当時の写真がばっちり収められていました。はまや氏にまつわるものは何枚かありましたが、この一枚がすばらしくて見た瞬間ぜひ描こうと思いました。
「美」の形に切られた画用紙を貼り付けたパレット型のボードを持っているのがアルバムをくれた友人で、その右で木の看板を掲げているのがはまや氏、いちばん右が野村です。列後方にも部の友人や後輩の懐かしい顔があります。作業時に使うエプロンを着け、手にはスケッチブックと一輪のひまわり。ユニフォームがないためこのいで立ちでしたが、手作り感がかわいらしい反面ほかの部が揃っているぶん異質な雰囲気もあり、美術部らしさがよく出ていると感じました。
高校や大学と比べて中学校はさまざまな境遇の生徒がいるもので、この美術部もそうでした。性格も趣味も学力も家庭環境も部活へのやる気もさまざま、ばらばらでしたが、美術部という変わり者を受け入れる場所で、それぞれが好きなように来たり来なかったり描いたり描かなかったりとのびのびさせてもらっていました。
至って凡人で変わり者を気取りたかったわたしの目には、はまや氏は当時からかなり変わり者に見えました。わたしはわかりやすく漫画に影響されたイラストを描いていましたが、はまや氏は点描や細かい線描で独特の作品をつくっていました。
当初は自分とまったく異なる作風に戸惑いを覚えましたが、心身の苦しみやその他すべての感情を吐き出すかのような、わたしには到達できないものづくりの姿勢と作品に次第に敬意を払うようになりました。
先日の二人展ではまや氏は当時の周囲に見せていなかったつらさを振り返って話してくれました。
現在のはまや氏は、社交的で流暢な関西弁で軽快な冗談を飛ばしさながら面倒見のいい関西のおばちゃんのようですが、
あの頃から今に至るまで、生き抜くために膨大な量の作品に自身を投影してきたのだと思います。
制作スタイルは違えども、ずっと大切な同志です。
あの頃の大切な仲間とともに写った絵で節目の展示を賑やかさせていただきます。
2024.07.16
は ま や 野村みずほ 二人展「かつての水たまり 屋根のある場所」
2024.07.10 wed – 07.15 mon
@イロリムラ
大阪での二人展が無事終了しました。
昨年9月にはまや氏から二人展のお誘いをいただいて、二つ返事で開催が決まりました。
はまや氏は小学校・中学校を共に過ごした友人で、挨拶文にも書いたとおり、関西と大学になじめずにいたころ家族ぐるみであたたかく接していただいた恩があります。
いつか恩返しをしたい、しかし自分にできることなんて何があるだろうか……と何もできずにいたので、これ幸いと便乗し、二人展で感謝を表すことにしました。
描くモチーフは、はまや家と、大学と、制作室周辺と、京都の生活、帰省した鹿児島で選定しました。
大学時代の合評のときのように、わたしは誰かに絵を見てもらいながらエピソードを話すのが好きなようで、むしろ自分の話がしたいがために絵を描いている節があります。
今回も、風景などはわりあいニュートラルに見ることができますが、親しい人物を描いたものは「きっと観に来てくれるだろう」という前提で、その人と話すために選んで描きました。
はまや家のみなさん、大学の友人先輩後輩、地元の友人など、絵を前にして描かれていることだけでなくそれ以上のディティールで話をして、同じ時間を共有していたことが実感でき、懐かしく、うれしかったです。
開催場所のギャラリー、イロリムラさんは、過去にはまや氏主催のグループ展で作品だけ飾ってもらったことがありましたが、訪れるのは初めてでした。
駅、それも梅田からも近い良い立地、あたたかみのある室内、展示室が数部屋ありほかの作家さんとの交流もあり、オーナーさんもおやさしい。とても素敵な場所でした。
イロリムラ周辺で活躍するはまや氏の作家仲間のかたもたくさんご来場いただき、ご挨拶させていただきました。人見知りのためうまくお話できてはいなかったでしょうが、物腰柔らかく楽しいかたばかりで、お見送り後毎回「いいひとだった……」「せやろ?」のやりとりをはまや氏としていました。
会場にははまや家のみなさまだけでなく、遠方に住む野村家もなぜか全員集合してくれました。家族ぐるみで友人のため、久々の再会のきっかけをよいかたちでつくることができよかったです。
はまや家のご両親は、この二人展が感慨深く泣いてしまったそうです。少しでも感謝を表せればと思っていましたが、思った以上に喜んでくださいました。
大学卒業以来会えていなかったかたや遠方の友人も何人も来てくれて、わたし自身もとてもうれしかったです。
ほかにも、行くことはできないけどとお花をいただいたり、開催おめでとうと連絡をいただいたり、前回の個展でもそうでしたが、展示をすると人のやさしさにたくさん気づかされます。
このやさしさにどう恩返しをしたらよいのか、返せるときまで受けた恩を忘れず、また制作を続けていこうと思います。
2024.07.16
「プロット・アゲンスト・アメリカ カバーイラスト」
画用紙に油彩 2024
4月に発売された文庫のカバーイラストです。
フィリップ・ロス「プロット・アゲンスト・アメリカ」(集英社文庫)
デザインはFragmentの柳川貴代さんです。
本作は解説を含め600ページほどある骨太の作品で、第二次世界大戦中にもし親ナチスの大統領が誕生したら……という設定でユダヤ系家族の生活がじわじわと差別に侵食される様子が描かれています。
主人公は作者自身を投影した作者と同じ名前のロス少年です。戦争、政治、差別といった重く難しいようなテーマですが、少年の目を通しているため、複雑な事情を理解しながら読むというよりも生活の中のリアルな体感としてそれらに触れていく感覚でした。
差別や分断が蔓延る現代にこそ読んでほしい一冊だと思いました。未読の方はぜひ読んでみてください。
2024.03.23
「鴨池港」
画用紙に油彩 2022
個展のために制作した作品ですが、昨年夏発売の文庫本の装画にご使用いただきました。筆不精でこちらに書くのがとっても遅くなってしまいました……
宇佐美まことさん「ボニン浄土」(小学館文庫)
デザインはbookwallの上原さんです。ご一緒させていただくのはこちらで三冊目でした。いつも本当にありがとうございます。
「ボニン浄土」は小笠原諸島のお話ですが、「鴨池港」は鹿児島のシンボルとも言える桜島を描いています。このまま装画になれば、目にした県民は「鹿児島の話かな」と思ってしまう可能性があるのではと思い、上原さんにお願いして形を変えていただきました。柔軟にご対応いただきありがとうございました。
個展のための制作中はさまざまなプレッシャーを勝手に背負い、どのようなものを描けばいいのかわからなくなっていました。
「鴨池港」は堤防の上を歩く恋人を描いたものですが、構図がややベタかな、かっこよく決まりすぎているかな、でもそういうもののほうが売れるかもしれない……と打算的な気持ちで描きました。完成してもよく描けているかどうか冷静に見られませんでした。
しかしいざ会場に展示してみるとわりとちゃんとかっこよく、小さいながら目に留まる作品になっていることがわかりました。
ご来場いただいた親戚のかたがお買い上げくださったのですが、その後もたまたま来てくださったであろうお客様に「これもう売れちゃったんですか?」とお声がけいただき、やはりベタを恐れずストレートにかっこいいものを描くことも大事なのだ、描いてもよいのだと実感しました。
そうは思ったものの、今改めて見返して、そもそも何だかそこまでベタじゃないような気もしています。