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2023.03.14

「逆転のバラッド」
画用紙に油彩 2022.12

発売からひと月ほど経ってしまいました。月日の経過が早いですね。
装画を担当させていただきました。装画のお仕事は3度目になります。
宇佐美まことさん「逆転のバラッド」(講談社)
デザインは前作に引き続き、bookwallの上原さんです。
帯を付けた状態もまたかっこよくて気に入っています。起用いただき本当にありがとうございます。

通常装画制作は編集さんとデザイナーさんと話し合い、ある程度のモチーフを決めたら構図はイラストレーターが決め簡単なラフを起こして進めていくそうなのですが、
私の普段の制作スタイルは写真をもとに(ある程度のアレンジはできますが基本的には)そのまま描き起こすだけであるため、元となるものがないゼロからの制作には不安がありました。
そのため宇佐美先生に着想元の風景をご撮影いただき、上原さんにそれを加工して人物配置をあらかた決めたものをラフとしてご作成いただきました。
私以外の方の負担が増えてしまうことに申し訳なさもありましたが、大きな手戻りの不安なく進められ大変ありがたかったです。そのぶん人物一人ひとりをしっかりイメージしながら描くことができたと思います。

制作で苦労したのはシニアだとわかるように描くことです。
服装は落ち着いたものにしていますが、それでも最初の段階では大学生くらいにも見える状態でした。
普段は恋人を描くことが多いうえ、仕事のチームも若い方ばかりのため、身の回りにその年代の男性がいません(父は今回のイメージとは少し雰囲気がちがいました)
おじさんらしさはどこに表れるのかと頭を悩ませ試行錯誤、髪型と輪郭の微調整で年齢を上げることに成功しました。なかなか難しかったです。

今回も発売のタイミングで何軒か書店を見に行きました。
私ではなく著者の先生や出版社の方のお力なのですが、本が目立つところに置いてあるとやはりうれしかったです。マスクの下でにやにやしていました。

2023.01.10

野村みずほ 個展「帰ってから戻るまで」
2022.12.18 sun – 2023.01.08 sun
@zenzaiマージナルギャラリー

展示風景まとめページはこちら

はじめての個展が無事閉幕しました。
関わっていただいたすべての人に感謝をしています。

お話をいただいたのは桜が咲き始めた3月のこと。
鹿児島帰省の最終日、空港バスに乗る前に友人とランチをしようと鹿児島中央駅に着いたときでした。
Webサイト経由で来たメッセージは、「要出展料で海外アートフェアに出しませんか」というたまに来る勧誘メールではありませんでした。
個展、あのマルヤガーデンズ、あのzenzai(鹿児島ではけっこうな人が知っているカフェで、わたしも本店へ3度ほど行ったことがありました)、しかも初売りなどで来場者が多い年末年始。
うまい話すぎて動悸が止まりませんでしたが、すぐにやらせてくださいとお返事をしました。
(その後友人と鶏飯を食べましたが、まだ「やっぱりなしで」と言われるのではないかと思っていたので友人には黙っていました)

話が進みどうやら本当らしい、と確信が持てたので、制作の日々がスタートしました。

まず考えなければならなかったのは展示方法です。
紙っぺらに描いて画鋲や虫ピンで壁に飾る、という飾り気ゼロのスタイルだったため、
人にお見せする、あわよくば買っていただくための体裁を整える必要がありました。
額装に憧れはありましたが、予算や時間、どの額が合うかなど考えることが増えてパンクするのがこわかったため
安全策として今回は基本的にパネルへの水張りにすることにしました。
しかしそれも不器用ゆえに角の折り方など習得に大変苦労しました。

そして個展のテーマ。
京都芸大の卒業制作で「京都在住観光記」と題して京都で暮らすなかで撮った風景を描いたように、
観る人のほうにも「これ知ってる」「見たことある」という共通点を発見する楽しさや親しみを持ってもらえるものがよいなと思っていたので
鹿児島の風景に絞って描くことに決めました。
中でも鹿児島を離れてからの約10年の間の帰省で撮った写真、ということで進めていきましたが、
交友関係が狭いため人物が偏っていたり、家の中など私的すぎるものが多かったりと、
描くのは楽しそうだけれども第三者目線を考えたとき様になっているかを考えると、モチーフ選びのさじ加減が難しかったです。

過去の作品にも鹿児島を描いたものがあるのでそれを出してもよかったのですが、
わたしは大学時代ののびのびしたわたしの絵が好きで手放したくないため、
そしてそんなわたしの好きなわたしに頼らなくても、今のわたしでちゃんとやれるんだと自信をつけたかったため、
3月末から12月初めまでの8か月強で描いたものを展示しようと思いました。
そうは言っても卒業から5年以上が経ち、制作も2か月に1枚程度に減っていたため、いきなり人に見せられる作品を描こうと奮起しても思い通りにいかず、
自分で気に入る出来のものが描けるようになったのは10月くらいと、かなりギリギリでした。

制作期間中、ずっと「無名のわたしでよいのか」「価値を見出してくれる人なんているのか」「1枚も売れないのではないか」「オーナーさんにがっかりされるのではないか」など、
誰からもかけられていないプレッシャーにひとりで悩まされていました。
本業(Webデザイン)のほうがとてもホワイトなため、そちらで悩みを抱えなかったのはとても幸運でした。
基本テレワークのため、いちばん根を詰めていた期間は始業前と昼休みも制作をしていました。

あっという間に12月が来て、あっという間に搬入日になりました。
不安でたまらなかった小心者のわたしを、家族と恋人は全力でサポートしてくれました。
展示作業は芸大時代人任せにしていたせいでわたしのほうには活かせる経験がありませんでしたが、
恋人は一流の段取り力でてきぱきと作業し、かつわたしが不安を忘れられるようたくさん励ましてくれました。
夕方になり作業が終わってみると、35点すべての作品が過不足なくぴったり空間にはまっていて驚きました。
家の壁にあるときよりもずっとよく見えて、馬子にも衣装とはこのことだろうかと思いました。

それでもやっぱり初日の在廊前は緊張しており、身を固くしながらギャラリーへ向かったところ、
家族が先に来て入り口にお花を飾ってくれているのが目に入りました。
ほかにもたくさんのお花がすでにあり、立派な胡蝶蘭までいただいていて、
抱えていた不安との落差が激しすぎて頭が追いつきませんでした。
始まってからも続々と懐かしい方たちが来てくださって、しかもたくさん褒めてくださって、
悩んでいた日々なんてなかったかのようなあたたかく楽しいひとときを過ごしました。

搬入時、年越し、搬出時と期間中3回の帰省と在廊をしましたが、
毎回本当にたくさんの方が来てくださり、あたたかいお言葉をかけてくださいました。
家族、恋人、親戚、絵に描かせてくれたような親しい友人をはじめ、卒業以来会っていなかった中学高校の友人やそのご家族、遠方に住む友人、お世話になった先生やその教え子の方、両親や姉の関係者の方々、恋人のご家族やご親戚や先輩、SNS上でご挨拶した方まで。
友人同士が偶然同じタイミングで来て再会を喜ぶ場面もたくさんあり、それだけでこの場を提供できてよかったなという気にもさせてくれました。

専門の美術画廊ではなくカフェギャラリーという空間に(僭越ながら)わたしの絵は相性が良いのではないかと思いました。
難しいことは抜きにして、ひと目で何が描いてあるかわかるし、知っている景色もある。遠目で見ると写真っぽいけど近くで見ると筆の跡がわかる。もりもりした油絵のイメージとちがう薄塗りが水彩みたい。
絵を楽しみたいという方だけでなく、カフェを目的に来た方にもとっつきやすい作風だったかもしれません。この発見もうれしかったです。

いちばん心配していた売れ行きは、本当に意外なことに小作品が中心ですが1枚どころかけっこうな数をご売約いただきました。
ご購入いただいたのはもともとの知人の方が多いので、初回ボーナスのようなみなさまのやさしさだと捉えておりますが、
お金を出してもよいと価値を認めてくださったこと、そしてギャラリーさんへ少しでも恩返しさせていただけることが大変うれしく、ありがたいです。

長いはずの22日間の個展はすぐに終わりがやって来ました。
最終日は17時搬出開始で、1時間も経たないうちに完了しました。
作品を自宅に返送し、家族に焼肉で労ってもらい、東京に戻りました。

個展を開くことは夢のひとつで、でも行動力も自信もないため、おばあちゃんになってから小さなギャラリーを借りてやることができたらいいな、くらいに思っていました。
それがこんなに早く、そして想像もしなかったくらい最高の個展として叶うなんて。本当に夢のようなことです。

わたしがやったことといえばただ細々と描き続けていたということだけです。
きっかけを作ってくださった村原さん、選んでくださったオーナーの浜地さん、足を運んでくださったみなさま、あたたかいお言葉をくださったみなさま、お花や差し入れをくださったみなさま、お買い上げいただいたみなさま、そして惜しみない協力をくださった家族と恋人に心から感謝しています。
またいつか機会をいただけるようこれからも描き続けようと思います。本当にありがとうございました。

2021.12.06

「眼裏の太陽」
キャンバスに油彩 2016.9

まなうらのたいよう と読みます。
卒業旅行で訪れたアメリカ。旅の最終日。
歩き回って疲れた体を友人宅のソファに預けその濃密な行程を振り返るとき、まぶたの裏には鮮やかな景色とともにぎらぎらしたカリフォルニアの太陽の光が映ります。
旅が終わっても目を閉じればいつでも思い出すことができる強烈な光です。

私にとってとても大切な一枚を、このたび装画にご使用いただきました(発売から少し経ってしまいました)
ツチヤタカユキさんの「前夜」(小学館)
デザインはbookwallの上原さんです。
すばらしい作品です。まだの方はぜひお読みください。

余談ですが、この旅でアメリカを案内し家にも泊まらせてくれた友人はラジオが好きでハガキ職人時代のツチヤさんを知っていたこともあり、自分の家が装画の背景になったということをとても喜んでくれました。思わぬところで思わぬご縁があるものですね。

2021.03.07

「いすみ鉄道」
画用紙に油彩 2021.3

もう春です。早いですね。

昨年のちょうど今頃、先輩デザイナーのおじさんに勧められ健保の制度を使って宿をとり、房総一人旅をしたときの絵です。
遠くに行くのにろくに下調べもせず、なんとなく興味があったいすみ鉄道に乗るのと、なめろうを食べることだけ心に留めて行き当たりばったりで進みました。
その日はとてもいい天気で、あたたかくて、平日だったこともあってかどこへ行っても人気がなくて、どこを見ても景色がよくて。とにかく気分が高揚しました。
窓を開けて走るいすみ鉄道の車内を菜の花の甘い香りが通り抜けていきます。外を見るとこちらを撮る人がちらほら。カメラの向けあいにちょっと不思議な気持ちになりながらも、そちら側の景色も見たかったな、と思いました。

2020.03.22

「脇本海岸」
画用紙に油彩 2020.3

9月半ばの夏休みに鹿児島に帰り、母と姉とわたしの三人で両親の故郷と、昔よく遊んでいたこの浜に行きました。
海は冴えた空の水色を素直に映しており、足元には透き通る波が寄せます。東京にはもちろんこんな場所はありません。
ひとしきりこの一枚を含む写真を撮ったあとは母にカメラを預け、姉と二人で浅瀬を歩き遊んでいました。

海遊びに満足して車を走らせ鹿児島市街に戻ると、姉とともに科学館へプラネタリウムを観に走りました。外は桜島の灰が降っていました。
ただ単に星空案内が観たかったのですが、せっかくなのでセットになったポケモンのプラネタリウム番組まで楽しんできました。

自分にとってのノスタルジーを満喫したそんな一日は鹿児島の強い日差しとともに何度も思い出され、日常を送る支えになっています。